『鍋釜天幕団ジープ焚き火旅』
目黒 ええと、『鍋釜天幕団ジープ焚き火旅』です。1999年8月に本の雑誌社から刊行されたもので、副題は「あやしい探検隊さすらい篇」となっています。この前に出た『鍋釜天幕団フライパン戦記』が「あやしい探検隊青春篇」となっていたので、対になっている。その『フライパン戦記』はまだ東ケト会と言っていたころの初期探検隊の写真を掲載して、椎名と沢野がそれを見ながら対談するという構成だったけど、この『ジープ焚き火旅』は椎名が物書きとしてデビューしたあとの探検隊、子安や依田セーネンや米藤、ゼンジなども映っているから、具体的に言うと週刊宝石に書いていたころかな、「いやはや隊」が結成される直前の、初期探検隊の最後のころだね。今度は沢野との対談ではなくて、おれが椎名にインタビューする構成になっている。
椎名 見せてそれ。
目黒 本の雑誌焚き火叢書の1冊です。
椎名 これと同時発売が、高橋曻さんの『笑った。』だ。
目黒 これ以前に刊行したのが、椎名の『フライパン戦記』の他に、中村征夫『僕が帰る場所』と野田知佑『雲を眺める旅』。焚き火叢書はこの5冊で終わったような記憶がある(笑)。
椎名 売れなかったんだな(笑)。
目黒 でもね、面白いんだよ。たとえばこの『ジープ焚き火旅』は全6章にわかれていて、その見出しを並べるとこうなる。
- 「覆面男とトランシーバー」〔冬の東北うろうろ編〕
- 「でかマントは火吹き男」〔海はベタ波粟島編〕
- 「無人島ハシゴ旅」〔瀬戸内キャンプのんびり編〕
- 「さらば東京の灯よ」〔ヨットゆらゆら猿島編〕
- 「国境の島は寒かった」〔北の果てイソモシリ島編〕
- 「東ケト会の鍋釜始末」〔カヌー犬ガク登場の琵琶湖編〕
という6章で、最初の「覆面男とトランシーバー」は、『あやしい探検隊 北へ』で書かれた塩屋崎の旅の写真なんだけど、木村さんが初めて覆面をかぶったらそれが楽しくて、ずっと覆面をつけたままの写真が並んでる(笑)。テントの中で酒盛りしているときも焚き火にあたっているときもずっと覆面のまま。
椎名 あいつ、寝ているときも覆面のままなんだ(笑)。
目黒 バカだよねえ(笑)。それに写真も面白いけど、文章というか、おれの質問に椎名が答えていることも面白いんだよ。たとえばね、パンツ何履いてるって聞くのがおれたちの間で流行ってた、と出てくるんだけど、本当かよ(笑)。
椎名 高田馬場の飲み屋で長老が、おれはアリューシャンブルーのパンツを履いてるって言うのさ(笑)。
目黒 (笑)何なのよそのアリューシャンブルーって。
椎名 ただの青だよ(笑)。ズボンをちょっとさげてパンツの端を見せるんだよ。
目黒 それが流行ってたの? ばかだねえ(笑)。あと面白かったのはおれも忘れてたんだけど、沢田が隊員になったばかりのころ、目黒のところにきて、今回はどこへ行くんですかって聞くわけ。そんなの知らないって言うと、気にならないんですかってしつこい。お前が知りたいなら椎名のところへ行って聞けよと言うと、いやぼくからは聞きにくい。どこへ行くのか誰も知らないんですかってすごくびっくりしたのを覚えている──という話をおれがすると、椎名が次のように言うの。
椎 いい話だね(笑)。行き先を知ってどうするんだってのがあるよな(笑)。
──そりゃそうだ(笑)。
椎 でも、おれ思うんだけど、行っても何も楽しいことはないんだよな(笑)。
──それ、隊長が言っちゃいけないよ(笑)
初期のあやしい探検隊の雰囲気をよく伝えるエピソードだよね。
椎名 面白いなこれ。どうして文庫になってないんだ。
目黒 前作の『フライパン戦記』と一緒に文庫にするのがいいよ。この『ジープ焚き火旅』の58ページの写真を見てよ。椎名が大きなザックを担いで、港に立って笑っている写真。「隊長シーナ。島旅の〔基本第一体型〕」とキャプションがついている写真だけど、このころの探検隊を象徴する写真だと思う。隊長も大きなザックを担ぐと。そして本当に楽しそうに笑っているんだ。椎名の青春が、そして探検隊の青春がこの1枚の写真の中にあると思う。
椎名 ほお。
目黒 あ、そうだ。最後にこれ。巻末の琵琶湖編には野田さんも登場しているんだけど、子犬のころのガクが可愛いの。見てこれ。まいっちゃうぜ。
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